“歯を抜く”と言うことについての、いろいろなお話

歯科医院に通院していて、“ 残念ですが、この歯は抜かなければ成りません。”という言葉を聞くと誰しも一瞬“ ドキッ ”とするものです。
では、いったい皆さんは、歯を抜くときの何が恐いのでしょうか?歯を抜くときの先生の顔が、やけに嬉しそうだから?それとも、お口に触れる先生の手が小刻みに震えているから?ここでは、歯を抜くときの疑問や注意点を、1.麻酔をするとき、2.歯を抜くとき、3.歯を抜いた後(帰宅後)、といった3つのステップに分けて解説し、治療を受けるにあたって皆さんが抱きそうな不安の払拭に役立てて頂こうとするコーナーです。

1. 麻酔について
麻酔の方法は、全身麻酔と局所麻酔の2つに大きく分けることができます。通常、歯を抜く場合は、局所麻酔の中の浸潤麻酔と言う方法(治療する範囲のみを部分的に麻酔する方法)で行います。このとき用いる麻酔薬は、劇薬の指定を受けていますが、使用量が1ml〜5mlと少量なことと、メーカーからアレルギーの少ないものが開発されています(現在歯科医院ではそれらを使用しています)からかなり安全です。ですからほとんどの場合ご心配要りません。( ただし、アレルギー体質の方は注意が必要です。)また、体内に入った麻酔薬は、血清や肝臓中で速やかに分解され尿と共に排泄されます。ですから、妊婦の方にとっても、麻酔薬が胎盤を通過することは無く安全です。一方、麻酔をするときに用いる注射の針のサイズは、歯科のものは医科のものより相当細く出来ていますから、刺したときの痛みも昔に比べると相当軽減されています。“それでも注射が恐い”とおっしゃる方は、表面麻酔といって、針を刺す前に予めその部分をしびれさせるために“麻酔のジェルを塗る方法”が有りますから、それをご希望なさってはいかがでしょうか?

麻酔の前の予備知識
* 唇の近くに麻酔をすると唇がしびれます、鼻があると鼻が詰まったりします。
* 麻酔薬の中には、使用量が僅かでも効果が長持ちするように、“血管収縮剤”というものが入っています。その薬の影響で、麻酔の後、心臓の鼓動は激しくなり、一時的に血圧が上昇します。
* 高血圧の方や、以前に麻酔を打って気分が悪くなったり、アレルギーの出た方は、予めお申し出下さい。
*心臓に疾患があったり、喘息、アレルギー体質の方も予めお申し出下さい。
* 麻酔の後、気分が悪くなったり(宙に浮いた感じになったり)、頭痛が生じたときは、遠慮なくその旨を主治医に伝え、治療をストップしてもらって下さい。
* 治療前に緊張している場合は、別のことを(治療後、何をして遊ぶかとか)考えたり、足上げ腹筋をしたりして、気を紛らして下さい。(呼吸は深くゆっくりと!)

2.歯を抜くとき:抜くのに時間がかかる歯
歯を抜く前には、レントゲンを撮って予め抜く歯の状態を調べたりしますが、平面で見る写真と実際は、異なっていることが多いので、意外と抜くのが大変なことが有ります。特に、a) 普通の抜歯に比べ b) 複数の根っこがそれぞれ足を広げている場合や、c) 斜めに生えていて頭の部分が前の歯に食い込んでいる場合、などは、抜くのに時間がかかります。
以下に図で説明いたします。

a) 普通の抜歯
 

 
b) 複数の根っこがそれぞれ足を広げている歯の抜歯


c) 斜めに生えていて頭の部分が前の歯に食い込んでいる歯の抜歯


3.歯を抜いた後
抜歯後の傷の治り方( 治癒の順序 )・注意事項

抜歯当日の注意事項

手足に出来た傷も、抜歯後の傷も傷に変わりはありません、ですから治り方はほぼ同じです。でも、お口の中は常に湿っているので、傷口を保護するはずの血餅(けっぺい:血の塊・かさぶた)が食事や歯磨きをした拍子に剥(は)がれてしまうことがよく有ります。
血餅が流れると傷口は無防備となり、そこにお口の中の細菌が感染して治りが悪くなったりします。ですから歯を抜いた日は、次の5つの注意事項をお守り下さい。

1. 出血を確実に止めるために、清潔な脱脂綿やガーゼを傷口に当て、充分な時間(20分前後)  噛(か)みながら傷口を圧迫して下さい。( 出血が再度始まったときも同様にして下さい。)
2.
血液の味がするからと言って、激しいうがいをしないで下さい。
3.
激しい運動や長風呂は控えて下さい。
4.
飲酒もこらえて下さい。
5.
抜歯当夜は、傷口の痛むことがよく有ります、そんなときは氷を巻いたタオルなどで傷口を冷やして下さい。              
それでは、くれぐれもお大事になさって下さい!

歯を抜いた後の傷の治り方

1.
術後1時間:麻酔が切れて来るため、徐々に痛み始めます。( それまでに医院でもらった痛み止めを飲んでおいて下さい。)

2.
術後半日もすれば:血液が柔らかい血のかたまりになります。(まだ柔らかいので、激しいうがい等の刺激ですぐに流れてしまいます。血のかたまりは、傷口保護のために必要ですから大切に扱って下さい。)

3.
歯を抜いた当日の夜:痛むことがよく有ります、今日一日の辛抱だと思って耐えて下さい。( 薬も効かないときは、冷やして下さい。)

4.
術後24時間以上経過:血の味はしなくなりますが、食べ物が傷口の凹みに入ってきます。(うがい薬でしっかり消毒(グチュグチュうがい)しながら、食べ物を洗い流して下さい。)

5.
術後3日間:まだ傷口の辺りのほっぺが腫れて来る可能性が有ります。( 特に傷口を縫ってある場合)

6.
術後4日:ほとんど痛みも無くなり、傷口はかなり落ち着いてきます。( まだ、ジクジク痛んでいる場合、傷口が感染を起こしている可能性が有ります。お口の中には雑菌が多いので、身体の抵抗力が落ちていたりするとよく起こります。→  主治医に伝えて下さい。

7.
術後1週間 順調に経過すれば腫れも退き、傷口のことが余り気にならなくなります。

8.
術後1〜2週間 ひどく腫れた場合は、その辺りの皮膚が青味を帯びてきます、その後徐々に黄色に変化した後、消えて行きます。

9.
術後2〜4週間 血のかたまりからできたカサブタが、傷の周囲から徐々に歯ぐきに変わってきて、ほぼ1ヶ月で歯ぐきが傷口全体を被うように成ります。( ただし、まだ傷跡は、凹んだままです。)

10.
術後2〜4ヶ月 傷跡の凹みが少しずつ小さくなり、食べ物が詰まることからもやっと解放されます。

11.
術後5ヶ月〜6ヶ月 傷跡がほとんどわからなくなります。(見かけの完治)Br(かぶせもの(差し歯)の一種)や入れ歯の型取りを始めるのは、この時期です。

12.
術後7〜10ヶ月 歯ぐきの下では細胞が骨を一生懸命に作っています。( 本当の完治はこの頃です。) 

* その他:歯を抜いた後、唇が痺れていることが有ります、そのような時は麻酔が充分切れるまで1〜2時間、様子を見て下さい。その後も痺れが続くようでしたら、主治医にその旨伝えた後、指示に従ってください。 ( 痺れが残っても、ほとんどの場合、半年〜1年位で徐々に治ってきます。)